ネタの最初に笑わせる「つかみ」の作り方

観客は、ネタが始まってすぐはお笑い芸人が何をするのか分からないため、緊張から笑いが起こりづらい状態になっています。
それを解消する方法が「つかみ」です。

「つかみ」とは?


ネタを見に来た観客は、芸人がネタを始めるまでは「何をするのか分からない」「失敗するかもしれない」などの不安な思いから緊張して笑いが起こりづらい状態になっています。
観客の緊張感を振り払うためにも、まず最初に笑わせることが重要な課題になります。
もちろん、芸人自身も緊張しているので、最初に観客を笑わせることで緊張を振り払い、勢いをつけたいところです。

そこでネタの最初に「つかみ」をします。
つかみとは、ネタの展開を「起承転結」に分けたとしたら、「起」の部分内で観客を笑わせることです。
ネタの最初に笑わせることによって観客の緊張感を減らしつつ、ネタや芸人に対して安心感や興味を持ってもらえる効果があります。
(※笑い声を出さないとしても、「面白い」と感じれば緊張感が減ります。)

「ネタの最初に笑いを誘う」となれば、ネタごとに毎回新しいボケもしくはツッコミを考えていては大変です。
そこで「ネタの最初に毎回決まったギャグをする」という方法もあります。
特定のつかみ(ギャグ)を使って笑わせた観客であれば、そのつかみに対して面白い印象(好意)を持ちます。
後日、ネタの中で同じつかみを使えば、そのつかみに対して面白い印象を持っている観客であれば高確率で笑いを取れるようになります。
(※笑い声を出さないとしても、「ギャグを見れたうれしさ」を感じれば緊張感が減ります。)

つかみは主に漫才や漫談など(※芸人が観客に対しておしゃべりを聞かせるネタ)で行います。
コントやピン芸などでもつかみはできますが、漫才とは違ってネタによって最初の展開が違うため、(特にコントでは)「特定のつかみ(ギャグ)」をするのが難しくなります。
また、コントをするときに(ごく普通の生活風景で始めたり、謎めいたストーリーを展開するなど、)世界観を重視する展開では、つかみを入れずにネタの最初だけ笑いを誘わないほうが良い場合もあります。

漫才でつかみを行うタイミング


  • 舞台に登場後のあいさつ中
  • (※「しゃべくり漫才」の場合)話が本題に入る前までに
  • (※「コント漫才」の場合)コントに入る前までに
※「しゃべくり漫才」とは、漫才をトーク(おしゃべり)だけで行うことです。観客の見ている前で、コンビで会話をしながら漫才を行います。
※「コント漫才」とは、漫才中にコント(劇)を行うことです。観客の見ている前で、別の世界(※何かしらのテーマを持った劇)を演じます。

麒麟
舞台に登場後のあいさつ中に、ボケ担当の川島さんが口をマイクに近づけて低音の渋い声で「麒麟(きりん)です」と言います。
低い独特な声であいさつをすることにより、観客に対して急に渋い声を聴かせることで笑いを誘っています。

サンドウィッチマン
舞台に登場後のあいさつ直後に、ボケ担当の富沢さんが「名前だけでも覚えて帰ってください」と言います。
漫才の内容よりも名前のほうが大事、と観客に受け取られかねない、漫才師としては言ってはいけない内容で笑いを誘っています。

ナイツ
舞台に登場後のネタのテーマ(話のお題)を切り出すときに、ボケ担当の塙(はなわ)さんが「ヤホーで調べました」と言います。
インターネット検索サイト「Yahoo(ヤフー)」を「ヤホー」と単純な読み間違えをすることにより笑いを誘っています。

つかみの種類


ボケる
ネタの展開に合わせたボケをします。
聞き取りやすく、理解しやすく、うまくひねった面白い内容にします。

自己紹介をする
コンビ名(もしくは芸名・グループ名など)を入れた台詞を言います。必要であれば決めポーズやアクションも入れます。
芸人の明るさ(元気)や語感(言葉のリズム感)(+ 面白いポーズ・動き)で笑いを誘います。

決め台詞を言う・決めポーズをする
決まった台詞を言います。必要であれば決めポーズやアクションも入れます。もしくは観客に向かって決まった掛け声をします。
芸人の明るさ(元気)や語感(言葉のリズム感)(+ 面白いポーズ・動き)で笑いを誘います。

特定の面白い台詞を言う
(※上記の「決め台詞を言う・決めポーズをする」と意味が重なる場合があります)
「ギャグ」を言います。もしくは「決まり文句」を使います。
ギャグは、必ず決まった台詞を言います。例えば、「こんにちわんだふる!」というような感じです。
一方、決まり文句は、その状況に合わせて台詞を調節します。
例えば、若者が多いイベントでは、「今日のお客さんは若い人が多いようですが、老若なんにょん…老若にゃん…よろしくお願いしま~す!」。一方、年配の人が多いイベントでは、「今日のお客さんは年配の方が多いですが、老若なんにょん…老若にゃん…よろしくお願いしま~す!」というように状況によって台詞を部分的に入れ替えます。

自分・相方をネタにする
自分もしくは相方の見た目(顔・髪型・体型・服装など)、言葉(声質・話し方・言語など)、話す内容(人間性)を面白おかしく言います。
観客が芸人に対しておかしいと思っているところを代弁する(ツッコミを入れる)形で笑いを誘います。
※遠くにいる観客からは舞台上にいる芸人の見た目(細部)が見えづらく、意味が伝わらない可能性があるので注意が必要です。

環境をネタにする
観客に対して挨拶をした時の反応、もしくは自分たち(芸人)が舞台へ登場した時の観客の反応を面白おかしく言います。
観客のテンションが低すぎたり(反応が悪かったり)、逆にテンションが高すぎることに対してツッコミを入れて笑いを誘います。
(※観客を使って笑いを誘う方法は、ダメだと言う人もいます。)
または、会場の中や外、楽屋、会場の周辺地域などを面白おかしく言います。
環境の「あるあるネタ」や、意外な情報で笑いを誘います。

直前の情報
直前にネタをしていた芸人さんやそのネタを面白おかしく言います。
(※この方法もやってはダメだと言う人がいます。)
または、話題になっている時事ニュースを面白おかしく言います。

※以上までの項目で、つかみとして行っている決まった発言や行動が観客(世間)に覚えてもらえれば、「ギャグ」という扱いになります。

つかみに対しての相方の反応


ボケるのみ
一方がつかみのボケ(ギャグ)をするだけで、もう一方(相方)はそれに対して反応しません。
※この「ボケるのみ」は「言いっ放し」にするだけです。ネタの最初にさらっとボケる感じです。もしくは元気で押し切ります。

ツッコミを入れる
一方がつかみのボケをしたあとに、もう一方(相方)がそれに対してツッコミを入れます。
※さらっとツッコミを入れる感じです。

一緒にボケる
一方がつかみのボケをするときに、もう一方も一緒に行います。

(※肌が色白)松嶋尚美「白です!」
(※肌が色黒)中島知子『黒です!』
松嶋・中島「『オセロです!』」

※それぞれが外見の特徴(肌の色)を言い、最後にコンビ名(※白色のコマと黒色のコマで対戦する遊びの「オセロ」)で納得感を作り出しています。

続けてボケる
一方がつかみのボケをしたあとに、もう一方(相方)がそれを応用する形でボケます(※二人ともボケる「Wボケ」)。
※つかみをする時にだけWボケにします。つかみ以降は、それぞれのボケやツッコミの担当に戻ります。

「自己紹介しま~す!トレンディエンジェルのたかしで~す!道端アンジェリカちゃんと同い年の30歳で~す!」『トレンディエンジェルの斎藤で~す!道端の(※薄い頭髪を指さし)草で~す!』

「自己紹介しま~す!トレンディエンジェルのたかしで~す!WaT・小池徹平君と同い年の29歳で~す!」『トレンディエンジェルの斎藤で~す!WaT・小池徹っペッペッペェーッ!(※動作を付けたギャグ)』

※一方が同じ年齢なのにもかかわらず外見に格差を感じる有名人の名前を挙げる自虐的な(※視覚的な)ボケを行い、もう一方がそのボケを応用しつつ自分のキャラを活かした(※視覚的な)ボケをしています。

舞台に登場しただけで笑いが起こる?


出オチ
舞台に登場した瞬間に、登場した人物が意外な格好・状態をしていると、驚き(意外性)が起こり、笑顔(+ 驚きで声が出る)になります。

意外な人物
思いもしなかった人物が舞台に登場すると、驚き(意外性)が沸き起こり、笑顔(+ 驚きで声が出る)になります。

人気のある人物
有名人ともなると、舞台に登場した瞬間に、喜び(興奮)から感情が湧き起こり、笑顔(+ うれしさで声を出る)になります。

好きな人物
自分にとって好きな人物が舞台に登場すると、喜び(好意)から感情が湧き起こり、笑顔(+ うれしさで声を出る)になります。

前説
イベントを始める前に、人物が舞台に登場した瞬間にどのような反応すれば良いのか(拍手や歓声のあげ方)をスタッフが観客に対して練習させておいた状態で、人物が舞台に登場すると、拍手や歓声を上げます(+ 上記までのいずれかの反応)。

レベルの高いひねりは必要?


ネタの最初で「ひねりの弱いボケ」をしていたとしても、ネタをすべて見終わって全体が面白ければ、観客はネタや芸人に対して「好意」を持ちます。
もし「ひねりの弱いつかみのボケ」でも何度も目や耳にすることになれば、それは「ギャグ」となり、ネタや芸人に対する好意の延長からギャグも好かれるようになります。
次回以降のネタを見るときに、おなじみのギャグ(※実態はひねりの弱いボケ)が入っていれば、観客は好意の高まりから面白いと思ったり笑ったりするので、必ずしもレベルの高いひねりを必要とするわけではありません。

仲の良い友達と再会したときに自然と笑みがこぼれる状況と同じで、好意の高まりが緊張感を減らして笑いを引き起こします。
ネタが面白かった!芸人さんのことが好き!など、つかみで笑いを誘うには、観客から好かれる面白いネタを作り、好かれる芸人になることも重要です。